元教官からのアドバイス
「特別編① 論文対策は「答案の骨」をストックしておく」

21世紀幹部昇任試験研究会 特別寄稿

近年、昇任試験の記述式問題(いわゆる法学論文、実務論文)の採点経験者から、「論文が苦手な受験生が増えた」「キーワードを羅列しただけで文章になっていない」といった声が聞かれるところである。

いわゆる「大量退職時代」が一段落した現在、昇任試験は再び狭き門になりつつある。「一次SA試験の正答率を上げなければ、そもそも論文試験に進めない」という焦りもあろう。それでなくとも、第一線の警察官は事件事故への対処に忙しく、読まなくてはならない実務書や教養資料もたくさんある。

そのような中で、「忙しい受験者がどのように論文試験の対策をすべきか」という観点から、拙稿のエッセンスを抽出した。これから学習を始める方にも、学習をスタートさせたが手応えを掴めない方にも、何らかのヒントになれば幸いである。

予想問題の解答案を書いておく

憲法、行政法、刑法、刑事訴訟法等各科目について約30問を予想して答案を作成しておくとよい。それには、過去出題された問題の中で出題回数の多いものや、過去2〜3年内で警察として職務執行上大切な法律的な問題点を争うような事件について、その事件を立件送致するために必要な法律の知識を拾い上げて問題を作成して、それに対する解答案を作り上げておくことである。

新判例が出ると、「判例ジュリスト(増刊号)」等、近時の重要判例を集めたものを購入して、必要な事項を書き加えて解答案を作成しておくこと。

この解答案は、警部試験に合格するまでは捨てないで保管して、適宜法律改正や、規程の改正があれば、そのところを修正し加筆しておくことである。

これまでなかなか昇任試験に合格していない人は、この解答案を捨てるか、放置して散逸していた者が多い。せっかくの自分の貴重な財産を捨てるようなことはしないでほしい。

そして、試験日の一か月前に10問に絞り込むことをすることである。30問について自ら作成しておけば、忘れることは決してないので、仮に絞り込んだ10問の中に試験の出題がなくても、後の20問の中から出題されたとしたら50%から65%くらいは解答できるものである。

試験の解答時間は、管理論文や実務論文を除くと、一課題につきおおむね45分間が通例である。そのためには、45分で書き切れる解答案を準備しておかなければならない。どんなに速く書いたとしても3枚が限界であろう。そこで3枚にまとめる解答案を作成しておく工夫をすることである。

この解答案の作成方法は、一番覚えやすい方法で作成することである。当グループが指導してきた方法は、「魚を三枚におろす」という方法である。

例えば、下図のように、

問題の解答が鯛の場合

問題の解答が秋刀魚の場合

採点者が、問題の内容を理解しているかどうかを判断するには、その解答の形(要点)が、鯛になっているか、秋刀魚になっているかを判別していくのである。このように、解答案を要点のみの中骨だけに記載していくと、大変記憶しやすいものである。覚えやすいだけでなく、15分〜30分しか時間がないときは、野球でいう素振りのように、「骨」だけを再現していくことで、細切れ時間でも多くの問題を復習することができる。

この勉強方法での合格率は、非常に良かったので読者の皆さんも試してみてはと推奨する。

具体的な「答案例ストック」の素材としては、『実例模範答案集』をお薦めする。これだけでも十分な問題数があるが、万全を期すならば、これに「署長会議における本部長(警視総監)訓示」の内容や、年度版の問題集などから、「これは出そう」と思った新しいテーマを足していくと良い。

分厚い問題集を目前にした後輩から、「こんなに立派な答案を書かなければいけないのですか?」といった相談を受けることがある。これについては、答案を書き慣れていない受験者は、一足飛びに模範答案を書こうと力まなくとも良い。まずは、答案骨子(要点・チャート)や太字になっている重要用語を参考に、「骨組み」を作れるようになってほしい。SAの知識が積み上がってくれば、「骨」に「肉付け」する内容も頭に入っており、少しずつ答案を充実させることができるだろう。

なお、「答案の骨」の作り方の指導に特化した書籍としては、『法学論文の書き方』『実務論文の書き方』がある。筆者としては、多少分厚くても、『実例模範答案集』のような手引書を、自分でアレンジしながら使うのが勉強だという思いもあるが、「コンパクトな1冊をきっちりと仕上げる」という考え方も理解できるところである。


次回は「試験本番で、制限時間の中で、いかに納得のいく答案を書くか」というテーマからアドバイスをお届けしたい。

(「元教官からのアドバイス」『月刊警察』2010年5月号掲載の記事に加筆。)