魂は細部に宿る
法執行官にとって重要なもの

1 重箱の隅をつつく人

「法律家は、理屈ばかりで、常識に反する結論を押し通す」「重箱の隅ばかりつつく」という声を良く聞く。たしかに裁判官、検察官や警察官に、思い当たる人がいないこともない。ただ前者の「常識に反する結論」は許されない。法律論の究極は「国民の常識」である。そして、法律の世界でも、「大局を掴む力」は決定的に重要で、「木を見て森を見ない」というのでは困るのである。

2 森を見て木が見えない人

しかし、「コロナ禍」の議論における、「感染予防と経済維持とのバランスが大切」という抽象論は、現実と向き合う法律家にとっては無意味に近い。「感染防止さえできれば良い」「経済の為には感染死もやむを得ない」という一方的な議論は論外であるが、「バランスを採るための具体的方策」という『木』の存在を踏まえない抽象論は、遠くから森を眺める「絵画」の世界に過ぎない。そして、絵画の世界でも「魂は細部に宿る」のである。

3 判例を学ぶ意味

「『木』が見える人」を法的な専門家というのである。たとえば防犯カメラ、GPSシステム等などの刑事システム内での扱いも、プライバシー侵害を国民が納得する範囲に止めつつ、カメラによる犯罪抑止や、犯罪の摘発を可能とする具体的制度をいかに構築するかが重要なのである。そして、具体的な「案」「制度」は、効果を挙げ国民に受け入れられるかにより評価される。

判例を学ぶことの重要性もまさにこの点につながる。具体的な事実の機微が結論を分けるのである。事件は一件一件異なる。そのことを噛みしめつつ、判例を読んで欲しい。砂を噛むような感じがするかも知れないが、魂は細部に宿るのである。その集積の上にしか、法的専門家としての真の常識は、身につかないのである。

前田 雅英

著者略歴
1949年東京都生まれ。1972年に東京大学法学部を卒業後、1975年から東京都立大学法学部助教授、2003年から東京都立大学法学部長を務め、現在は都立大学法科大学院兼任教授を務める。内閣情報セキュリティ本部員。中教審、中医協等委員のほか、法と精神医療学会会長、警察政策学会会長等を歴任。

著書・連載
刑事法の要点 表紙 刑事法判例の最前線 表紙 捜査研究 表紙 (捜査研究 「最新 刑事判例研究」連載中)