『備えいらずの防災レシピ』 特別対談(2021年1月)

 『備えいらずの防災レシピ』の発行から6か月が経ちました。
コロナ禍においても自然災害は頻発し、日ごろの生活の中で防災を意識する機会がますます増えてきています。
 我々は、いざというとき、非常時の生活に日常の生活要素を取り入れるためには、どう対応すべきなのでしょうか。
 一般社団法人 フェーズフリー協会 佐藤代表理事をお迎えして、
『備えいらずの防災レシピ』著者 飯田和子先生との対談の模様をお届けします。
※ 対談は、2020年12月22日に実施いたしました。新型コロナウイルス感染予防対策を徹底の上、写真撮影時以外はマスクを着用して対談を行いました。
※ 本記事の無断転用はご遠慮願います。

「フェーズフリー」とは、日常時と非常時という社会のフェーズ(時期、状態)を取り払い、普段利用している商品やサービスが災害時に適切に使えるようにする価値を表した言葉です。一般社団法人 フェーズフリー協会の代表理事である佐藤唯行氏が提唱しています。

書籍と動画が連動しているので、日常時にも災害等の非常時にも使えるレシピであることが伝わりやすいですね(佐藤)

飯田先生と談笑する佐藤代表理事
飯田先生と談笑する佐藤代表理事
─『備えいらずの防災レシピ』の発行から6か月が経とうとしていますが、読者の方々からの反応はいかがでしょうか。 飯田 講師をしている調理師学校で、学生の方からも「先生、買ったよ!」と声をかけてもらったり、実際にレシピをつくったという話を聞いたときはうれしかったですね。授業とは違う内容が書籍に掲載されているので、興味をもっていただいています。今の季節は、表紙にある「カラダほっこり! 具だくさんシチュー」が美味しくて、簡単につくれるということで好評を得られていますね。「シチューが表紙の本」として認識してくださる方も多くいらっしゃいます。

佐藤 私の周りでは「動画と連動しているところがいいね」という声を耳にします。この書籍のテーマが、「簡単」「便利」「エコロジー」に通じると思うんですけど、動画と連動させることで、日常時にも使えて、災害等の非常時にも使えるものであることが伝わりやすいですよね。




スーツケースに普段使っている食材をストックしてスペースを有効活用。
非常時の際は、そのまま持ち出すことができます(飯田)

佐藤代表理事のお話を伺いながら、メモをとる飯田先生
佐藤代表理事のお話を伺いながら、メモをとる飯田先生
─『備えいらずの防災レシピ』では、「食」の観点で「フェーズフリー」という考え方に触れています。現在の「食」の分野における「フェーズフリー」に対する動きについて、どうお考えでしょうか。 佐藤 「食」の観点で「フェーズフリー」の考え方を取り入れた提案をしていただくケースが増えていますね。飯田さんのようにレシピを提案する方や、例えば、乾物といった食材自体がもつ本来の良さを提案したり、「フェーズフリー」の観点で商品開発の企画を提案する食品企業等からお話を伺うことがあります。
将来、食糧問題など「食」に関する課題が懸念される中で、どのような「食」のあり方が理想的なのか議論されています。それは、社会課題を解決し、多様性に対応する食のあり方につながると思いますが、そうした課題に対応するために「フェーズフリー」の観点を取り入れた未来への取組が進んでいます。
 そんな中、飯田さんは書籍というかたちで日常時と非常時の垣根を越えた「食」を提案しています。書籍では、「それって、いいよね」と言ってもらえるように、生活をする皆さんの目線で提案されていますので、普段の食事が災害などの非常時にも役立つ食事であることがとても分かりやすいですよね。
 「フェーズフリー」に対しては、生活に近い「食」という分野から飯田さんが、読者の皆さんに「これって便利」「やってみよう」と思っていただけるような観点で情報発信されているので、この書籍でも実践することの必要性や考え方を分かりやすく伝えていただいていると思います。

飯田 和食に欠かせない食材、例えば、海苔やお麩といった乾物などは、普段から家にある食材であるかと思います。災害時のために意識して使う食材ではないので、あえて災害に対応するために「備えない食材」ということになりますね。日常時と非常時、どんなときでも使える食材は数多くあります。
 私は普段、こういう食材は普段からストックする場所の一つとしてスーツケースに入れ、いつでも使えるようにしています。日常時は、そこから食材を出しますし、非常時は、そのまま持ち運んで使うことができます。
 講演会等でお話しさせていただく際には、実際私が使っているスーツケースの中をお見せして、スペースの有効活用という観点から災害時にお役立ていただく対応の一つとして提案しています。中に入れて持ち運ぶ食材は、高齢の方には、噛みやすい食品を用意していただくなど、それぞれの立場に合ったものでよいかと思います。



この書籍に基づいた食事づくりが日々の生活の負担を減らせるという利点は、災害時にも活かされてきます(佐藤)

佐藤代表理事と議論を交わす飯田先生
佐藤代表理事と議論を交わす飯田先生
─食材に関するお話がありましたが、例えば、災害時のために「レトルト食品を用意しよう」「缶詰を用意しよう」といった考えは依然根強いかと思います。そうした観点を含めて、災害時における食事の現状と今後の課題について教えてください。 佐藤 「食」に求められているもの、それは、「安心」「安全」「楽しさ」「美味しさ」「簡単」「健康」「適量」といった要素であるかと思います。レトルト食品や缶詰には「簡単」「美味しい」といった要素が当てはまると思います。
 ただ、「保存がきく」「備蓄に適している」といった災害時だけに特化したような商品は、ニーズに限りがあります。機能的な商品であっても普及しないということは、その商品は消費者の方の生活を守れないということです。
 災害時に役立つ機能に飯田さんが伝えている「食」の提案が絡み、我々が求める「食」の観点とマッチしているからこそ、この書籍にニーズがあると思っています。普段からいざというときまで、いつでも活用することができますよね。

飯田 私が、災害時も含めて、どんなときでもつくれる食事のレシピを考える基準としては、「誰でもできる」「道具がなくても食材があればできる」という観点です。もちろん、お子さんでもつくってもらえるように意識しています。
 「スケッパーなどの道具が手元にがないからできない」ということではなく、いざというとき、切る道具がなければ、手でちぎってもいいわけです。ある料理をつくるために道具を手配しなくてはいけない、といったことは災害時において非効率です。
 普段から最低限の道具を使ってつくることができ、かつ、いつも食べているものに近い食事を提案するように心掛けています。

佐藤 飯田さんの考えることは(時代の流れに対する)方向性の位置付けてくれているんですよね。仕事と家庭を両立しながら生活する家族が多い現代で、時間の限りがある中でも、普段家事をしている方以外の方、特に成人男性、高齢の方、お子さまでも参加しやすい、つくりやすい食事の提案をしていただいていると思います。この書籍に基づいた食事づくりが日々の生活の負担を減らせるという利点は、災害時にも活かされてきます。
 食材が持つ機能や利点を活かしたレシピが読者の方から共感を得られるということは、そうした裏付けがあるからだと思っています。
 食品等の商品としては、そうした方向性の概念を意識したうえで、「適正価格」「適量」といった観点が活かされたものであると、「フェーズフリー」を意識した商品ということになってくるかと思います。



災害時の「食」って実は、栄養や質の観点でみると遅れがちです(佐藤)

シチューの画像
出典:『備えいらすの防災レシピ』(東京法令出版、写真:松村宇洋(Pecogram))
─災害時は特に、被災された方の気持ちが不安定になる場面が多くなるかと思います。そうした場面で安定をもたらすのが「食」であると思うのですが、災害時の「食」に対する重要性について、ご意見をお聞かせください。 佐藤 学会等でも議論されていることかと思いますが、災害時の「食」って実は、栄養や質の観点でみると遅れがちです。
 災害食で皆さんが想像されるものって、「パンの缶詰」や「水を入れて食べられるご飯」などを思い浮かべると思いますが、ほとんど炭水化物ですよね。これらはもちろん、機能的でエネルギーを確保できるものではありますが、救援物資を届ける側の立場から、「非常時に手軽にカロリーが摂取できればいいよね」という観点で災害食として選ばれ、推奨されるものです。

 ただ、災害時には、避難所等で配られるお弁当やレトルト食品のみで生活せざるを得ないこともありますが、1週間そのような生活が続くと飽きもありますし、栄養面では足りない部分があり、体調を崩す方もでてきます。
 災害時でも「食」の問題を考えなくてはいけないといわれていますが、現場では、被災者の方の生活の安定を優先させ、公平性を重視する行政の流れの影響もあり、必要最低限の対応になるので、「食」への対応が後手に回ってしまい、細かいところまで配慮は行き届いていません。
 本来は、災害時などの非常時であるからこそ、「食」においては、精神面の安定、栄養面の強化、生活リズムを普段の状態に戻す、コミュニケーションツールとしての重要性などといった面がより意識され、議論を重ねながら環境を整備していくべきだと思います。
 しかし、災害時にその議論をするのではなく、この書籍のように、災害時などの非常時に活かせる「食」の機能面について、普段から知識として知っておく、又は意識しておくことで、現在の災害時に対する「食」への考え方は変わってくるのではないでしょうか。


この書籍のレシピは、災害時のためだけにつくるといった強制的な要素がないですね(佐藤)

─佐藤代表理事がおっしゃられたとおり、災害時では、「食」が持つ重要な要素が活かされないことを編集担当は以前から懸念しているところがありましたので、飯田先生には、普段に近い食事でありながら栄養面を重視していただき、レシピをご考案いただきました。 佐藤 栄養バランスを考えた食事って、日常においてもとりづらいですよね。それは、普段は食べるものが世にあふれているからこそ、美味しいものを食べたいときに食べる。そうした生活習慣が影響して体調不良にもつながるかと思いますが、この書籍が普段の食生活を改善させるきっかけになるといいですよね。
 この書籍を読んで、読者の方に実際につくってもらうことを意識して制作されたかと思います。しかし、災害時に書籍を読んで、その場で実際につくってもらうような流れに導くことは難しいと思います。
 だからこそ、先ほども言いましたが、書籍の内容を普段から知っておく、又は身につけておくことが重要ですね。更に、日常の食事に近いレシピが多いので、災害時のためだけにつくるといった強制的な要素がないので、より読者の方がなじみやすい内容であると思います。


料理を提供する飯田先生
出典:『備えいらすの防災レシピ』
(東京法令出版、写真:松村宇洋(Pecogram))

飯田さんは、非常食がもつ利点に、「美味しい」「楽しい」「簡単につくる」「便利」、さらには「栄養」といった日常時の「食」の利点を付加しています(佐藤)

─「食」に関して、災害などの非常時と日常時における既存の概念を超える考え方について教えてください。 佐藤 生活の質を時系列で示し、図解したうえで解説します(下図参照)。

図01
日常時と非常時の生活の質(QOL)の違い(図提供:一般社団法人 フェーズフリー協会)
 日常時を、消費者の方に対して、「美味しい」「楽しい」「簡単」「便利」といった「食」の重要な観点が提案できている状態であると仮定します。そこに災害が発生すると、「つくれない」などの事象が起こるため、提案が活用されない状態となります。そこから日が経つにつれて復興の状態となり、日常の流れを取り戻していきます。生活の質に波のある状態です。
 それに対して、災害食って「簡単に食べられる」「備蓄できる(長期保存できる)」というイメージを浮かべることができるかと思いますが、日常の食事にはアプローチできていませんよね。普段、災害時以外で「パンの缶詰」や「水を入れて食べられるご飯」を食べることは、消費期限の関係で消費する以外は機会が乏しいと思います。さらに、そのときに向けて用意するということは、「コストがかかる」「備えるための収納スペースが必要となる」ことにつながります。
 今までの世間の「食」という認識は、日常食と災害食で「それぞれの状況で食べるもの」というすみわけがなされていました。一方、飯田さんが提案しているのは、そのすみわけをなくすこと、つまり、先ほど説明した状態を比較的フラットにして、生活の質を維持していくということです。
 それは、先ほどの波のある状態とは違い、災害時においても、日常時に提案できていることができるようにしようという考え方、いわゆる「フェーズフリーな食」という概念です。
 飯田さんは、非常食がもつ利点に、「美味しい」「楽しい」「簡単につくる」「便利」、さらには「栄養」といった日常時の「食」の利点を付加したのです。
 災害が起きた際、電気・ガス・水道などのインフラが途絶えたときも、先ほどの要素をもっているため、普段の生活に近い食事をとることができます。だからこそ、『備えいらずの防災レシピ』という書名につながってくると思います。
 この書籍は、あくまでも、災害が起きたときのみにつくる「防災レシピ」とは一線を画したものであると認識しています。そうした制作側の意図が、この対談をきっかけに、より多くの読者の方に伝わることを願っています。


皆様の生活において、少しでも楽に過ごしてもらうために「食」の観点で提案をさせていただきたいです(飯田)

─毎年、大規模な災害が発生しています。災害の基本的な定義を教えてください。また、災害時の「食」への対応について心がけるべきことについて併せて教えてください。 佐藤 災害(Disaster)とは、地震・津波などといった「ハザード(危機:Hazard)」と呼ばれるものと、新型コロナウイルス感染症などの「社会の脆弱性(Vulnerability)」に伴うものが重なった状態のことを指します(下図参照)。
 例えば、今、東京で震度7の地震が起きた場合、大災害となります。それは、自然に起こるハザードに社会の脆弱性が絡み合い、事故や火災につながり、被害が発生するからです。
 ハザードに対しては、我々が人類として生活を営む以上、自然に起こりうるものであり、防ぎようがないことです。ハザードによる被害を出さないためには、社会の脆弱性に着目しなくてはいけません。それは、脆弱性を下げる対応が必要になります。そうすると被害を抑えることができます。
 「食」の視点で考えたとき、例えば、台風がある地域を直撃した際、農作物が出荷できなくなり、道路や鉄道が被害を受けると、物流が止まり、食糧の調達が困難になります。そうしたとき、我々は、災害食をはじめとした、備蓄した食糧で対応しようという流れになるのです。
 しかし、実際、世間で言われている1週間分の食糧の備蓄がしっかりできている方は、そう多くないと思います。その理由は、我々は、日常(普段の生活)に価値をもたらさない行動を持続するのが困難であるからです。
 飯田さんの考えは、備蓄という考えとは違い、日常生活の工夫を非常時に対応させながら、「簡単にできる」「美味しい」という要素を付加したことで、災害後の生活の質(QOL)のにつながるのです。それが、この書籍の利点であると思います。
 この書籍は、災害時に配られるものではなく、普段の生活に溶け込んでいるものですよね。災害時に「さあ、やってください」と言われても厳しいと思います。
 普段の生活に溶け込んでいるこの書籍が提案する「美味しい食事だからつくれる」「簡単につくれる」「知っておくと便利」といった内容を日常から意識しておくことで、自然と策を講じることにつながってきます。

図02
災害の性質上の分類(図提供:一般社団法人 フェーズフリー協会)

飯田 佐藤先生に丁寧に解説していただき、とてもありがたく思っております。私が普段から意識していることを言葉に落とし込むとすると、佐藤先生が提唱する「フェーズフリー」だったんです。
 以前、災害時の食事を提案する際、「災害時にポリ袋で調理する場合は災害時専用のポリ袋で調理する」という流れがあり、私は、「加熱調理のできる市販のポリ袋で対応できる」。そう思っていました。そうした思いに基づく私の提案方法にふさわしい言葉も見つからず、迷っている時期がありました。その後、「フェーズフリー」という考え方を佐藤先生に教えていただいて、私の考え方は間違っていなかったと、当時、背中を押してくださったような印象を受けた記憶があります。
 また、佐藤先生に、私が食の観点で「フェーズフリー」という言葉を使わせていただくことにご了承いただいたご縁で、今につながっていると思っています。
 そうした流れの中で私は、皆様の生活において、少しでも楽に過ごしてもらうために「食」の観点で提案をさせていただいていると思っています。

佐藤 他でもお話をさせていただくときに、同席された方に聞くんです。「防災って必要ですよね」「自身も家族も災害の被害に遭いたくないですよね」と。どちらに対しても「はい」と回答をいただきます。
 反対に、その方に「災害に対して備えてますか?」と聞くと、「備えてません」と回答があります。矛盾しているんですよね。それだけ、災害に備えることって大変なことであり、際限のないものなんですよね。どんなに意識が高い人であってもです。
 逆に「備える」という意識を転換することで、災害時の食の脆弱性を低くすることができ、皆さん自身の将来に対する不安も軽減できると思っています。それは、守るべき人を守ることができる可能性が高まるということです。そのための手段としては、この書籍が示すとおり、「簡単」にできるということが大切です。



「フェーズフリー」の考え方は、災害に対して「備えられない」ということを前提としています(佐藤)

─「備えない」ことによって、災害時において余裕が生まれ、的確に行動しやすくなるということにもつながりますか。 佐藤 「防災」と「フェーズフリー」は、繰り返す災害のあと、安全・安心な社会に戻していこうという目的は同じなんですよ。ただ、アプローチの方法に違いがあります(下図参照)。
 「防災」は災害に対して「備えること」を前提としています。「備えると、安全・安心な社会になりますよ」という考え方です。備えるって限りがありますよね。部分的に備えて、大切な人を守れると、一概に言い切れない部分があります。
 一方で、「フェーズフリー」は、災害に対して「備えられない」ということを前提としています。こちらは、「備えなくても、安全・安心な社会になりますよ」という考え方です。
 我々消費者は、日常時に「災害が起きたらどうしよう」と常に考えてはいないですよね。備えることをしなくても、普段の生活の延長線上で対応することが可能であるという考え方です。それがひいては、災害時において、多少なりとも気持ちの余裕につながり、適切な行動へ導いていけるものだと思います。


図03
防災用品とフェーズフリー品の違い
(図提供:一般社団法人 フェーズフリー協会)

「こういう時代が遂に来たか!」という印象を受けましたけど、情報発信の手段が増えたと思って前向きにとらえていきたいですね(飯田)

イメージ写真
紙の食器に調理したポリ袋を入れると、すぐに食べられる
(編集担当撮影)
─依然として、新型コロナウイルスは猛威を振るっています。こうした状況も災害であると思いますが、「フェーズフリー」の観点において、どういう意識をもって対応すべきでしょうか。 佐藤 私も、現状は災害時であるととらえています。これは、食の領域でも共通の考え方だと思いますが、新型コロナウイルスをハザードとして考えると、脆弱性が高まる対象は都市に住む人々ととらえます。
 なぜ、都市に住む人に対して脆弱性が高まるのか、それは、都市は、本質的な機能として、多様な人々が限られた空間と限られた時間の中で集い、イノベーションを起こす(創造を行う)場所であるからです。そのため、俗にいう「密」な空間が生み出されるのです。そこから脆弱性の高まりに至るわけです。
 そうした現状に対して、防災的に対策を考えると、「そうならないようにしよう」という意識になり、都市の機能を失ってでもコロナの感染を防ごうとします。結果、2020年4月に日本国内で緊急事態宣言が発令されましたよね。多様な人々が集うことが制限され、さらに個人に対してコスト面でも影響を受けることとなりました。
 一方で、そんなとき、フェーズフリーの観点で対策を考えるとします。飯田さんは、講演等は、緊急事態宣言が発令された際、どのように対応されましたか。

飯田 インターネットを通じて、リモートで対応しました。

佐藤 そうですよね。要は、今までは多様な人々が限られた空間と限られた時間の中で集わなければ、イノベーションは起きませんでした。一方、コロナ禍の現在は、インターネット上で多様な人々が空間と時間に限られることなく集うことができ、イノベーションを起こすことができる状況です。それが、いわゆる新しい生活様式、俗に言われている「ニューノーマル」というものです。
 コロナ禍における対策として、防災的な観点では、医療機関では防護服の着用、個人ではマスクやフェイスシールドの着用などの対策が、また、フェーズフリーの観点では、時差出勤、リモートワーク、オンラインでの会議・セミナー等の実施、食事のデリバリーの充実などの対策がなされてきました。
 こうしたコロナ禍以前からあった動きが、コロナ禍において必要とされ、新しい生活様式である社会になじんできているんですね。以前の社会における垣根を自然に近い形で越えている、まさに「フェーズフリー」であり、それは「ニューノーマル」に通じるものであるということです。この流れは、コロナ禍が落ち着いても続く流れですね。
 そうした生活の流れの変化は、我々の生活を豊かにする要素でもあるんですよ。

飯田 コロナ禍の講演活動やメディアへの出演は、主にリモートで行いましたが、一部対面で行えるようになったとき、例えば、小学校で講演をした際は、デモンストレーションは行ったうえで、試食は持ち帰りにしたり、できる範囲の中で対応をしましたね。
 また、デモンストレーション中心の講演スタイルなので、講演後にレシピ等をお渡しするのですが、ある自治体での講演では、新聞紙でできる紙の食器(ポリ袋で出来上がったものを入れてそのまま食べられるもの)を紹介したんです。講演後も好評で、今も自治体にお問い合わせもいただいているようです。
 今までも、先方のご要望には極力応えるかたちで対応してきましたが、こういった状況の中でも同じスタンスで、柔軟に対応はさせていただいていますね。
 私自身、皆様に有益な情報を「伝えたい」という欲求が高いものですから、リモートでの対応は、「こういう時代が遂に来たか!」という印象を受けましたけれども、時代に適合した流れとして受け入れていこうと思っていますし、情報発信の手段が増えたと思って前向きにとらえていきたいですね。

─最後に、読者の皆様へのメッセージをお願いいたします。 飯田 一品でもこのレシピの中から実際につくってもらって、簡単に美味しい食事ができることを実感していただきたいですね。体験していただくことで、いざというときにお役立ていただけると思っています。

佐藤 日常の生活に役立ち、なおかつ非常時の対応まで考えられている商品・サービスを利用することで、自然と「災害時のために備える」ことにつながります。「災害時のためだけに備える」という意識を取り払うことで、いざというときでも気持ちにゆとりをもって行動できると思います。

─本日は、どうもありがとうございました。