1 警察官職務執行法 警察官の活動の基本的なところを規定しているのは,ご存じのとおり警察法や警察官職務執行法です。
 このうち,警察官職務執行法第8条では,「警察官は,この法律の規定によるの外,刑事訴訟その他に関する法令及び警察の規則による職権職務を遂行すべきものとする。」と規定しています。「その他に関する法令」で,様々な法令が,警察官の職権職務について規定しているのです。
 これを災害対策基本法に関して主なものをまとめると,第54条で発見者の通報義務等,第58条で市町村長から警察官に対する出動要請,第59条で市町村長による警察署長に対する設備・物件等の除去等の要求,第61条で警察官等の避難の指示,第63条で警察官による警戒区域の設定,第64条で警察官の応急公用負担等,第66条で警察署長による漂流物等の保管,第68条で都道府県知事等に対する応援の要求等を規定しています。2 災害対策基本法における災害時の交通規制等 ⑴ 第76条
 第1項で,「都道府県公安委員会は,当該都道府県又はこれに隣接し若しくは近接する都道府県の地域に係る災害が発生し,又はまさに発生しようとしている場合において,災害応急対策が的確かつ円滑に行われるようにするため緊急の必要があると認めるときは,政令で定めるところにより,道路の区間(災害が発生し,又はまさに発生しようとしている場所及びこれらの周辺の地域にあつては,区域又は道路の区間)を指定して,緊急通行車両(道路交通法の緊急自動車その他の車両で災害応急対策の的確かつ円滑な実施のためその通行を確保することが特に必要なものとして政令で定めるものをいう。次条及び第76条の3において同じ。)以外の車両の道路における通行を禁止し,又は制限することができる。」として,被災地については,緊急通行車両のみが通行できるように交通規制が実施されることが規定されています。
 第2項で,「前項の規定による通行の禁止又は制限が行われたときは,当該通行禁止等を行つた都道府県公安委員会及び当該都道府県公安委員会と管轄区域が隣接し又は近接する都道府県公安委員会は,直ちに,それぞれの都道府県の区域内に在る者に対し,通行禁止等に係る区域又は道路の区間その他必要な事項を周知させる措置をとらなければならない。」 として,都道府県公安委員会による周知措置が規定されています。
⑵ 第76条の2
 第1項で,「道路の区間に係る通行禁止等が行われたときは,当該道路の区間に在る通行禁止等の対象とされる車両の運転者は,速やかに,当該車両を当該道路の区間以外の場所へ移動しなければならない。この場合において,当該車両を速やかに当該道路の区間以外の場所へ移動することが困難なときは,当該車両をできる限り道路の左側端に沿つて駐車する等緊急通行車両の通行の妨害とならない方法により駐車しなければならない。」としています。
 第2項で,「区域に係る通行禁止等が行われたときは,当該区域に在る通行禁止等の対象とされる車両の運転者は,速やかに,当該車両を道路外の場所へ移動しなければならない。この場合において,当該車両を速やかに道路外の場所へ移動することが困難なときは,当該車両をできる限り道路の左側端に沿つて駐車する等緊急通行車両の通行の妨害とならない方法により駐車しなければならない。」としています。
 今回の震災では,地震で路上に駐車された車両が津波で流されて緊急車両の通行に支障が出たり,復興の障害となったりしました。さらに,津波から避難するために多数の車両が使われ,渋滞が起き,避難が遅れた例もあるといいます。今後の検討事項であろうかと思います。
 第4項で 「第1項及び第2項の規定にかかわらず,通行禁止区域等に在る車両の運転者は,警察官の指示を受けたときは,その指示に従つて車両を移動し,又は駐車しなければならない。」 としています。
 緊急時に,こうした指示が徹底できるのかも含めて,再考が必要かもしれません。
⑶ 第76条の3
 第1項で,「警察官は,通行禁止区域等において,車両その他の物件が緊急通行車両の通行の妨害となることにより災害応急対策の実施に著しい支障が生じるおそれがあると認めるときは,当該車両その他の物件の占有者,所有者又は管理者に対し,当該車両その他の物件を付近の道路外の場所へ移動することその他当該通行禁止区域等における緊急通行車両の円滑な通行を確保するため必要な措置をとることを命ずることができる。」,第2項で, 「前項の場合において,同項の規定による措置をとることを命ぜられた者が当該措置をとらないとき又はその命令の相手方が現場にいないために当該措置をとることを命ずることができないときは,警察官は,自ら当該措置をとることができる。この場合において,警察官は,当該措置をとるためやむを得ない限度において,当該措置に係る車両その他の物件を破損することができる。」,第3項で,「前2項の規定は,警察官がその場にいない場合に限り,災害派遣を命ぜられた部隊等の自衛官の職務の執行について準用する。」,第4項で,「第l項及び第2項の規定は,警察官がその場にいない場合に限り,消防吏員の職務の執行について準用する。」,第6項では,「災害派遣を命ぜられた部隊等の自衛官又は消防吏員は,〔略〕命令をし,又は〔略〕第2項の規定による措置をとつたときは,直ちに,その旨を,当該命令をし,又は措置をとつた場所を管轄する警察署長に通知しなければならない。」としています。
⑷ 第76条の4
 「国家公安委員会は,災害応急対策が的確かつ円滑に行われるようにするため特に要があると認めるときは,政令で定めるところにより,関係都道府県公安委員会に対し,通行禁止等に関する事項について指示することができる。」 としています。3 災害対策基本法における災害緊急事態の布告⑴ 第105条・106条
第105条第1項で,「非常災害が発生し,かつ,当該災害が国の経済及び公共の福祉に重大な影響を及ぼすべき異常かつ激甚なものである場合において,当該災害に係る災害応急対策を推進するため特別の必要があると認めるときは,内閣総理大臣は,閣議にかけて,関係地域の全部又は一部について災害緊急事態の布告を発することができる。」としています。
 第106条第1項で,「災害緊急事態の布告を発したときは,これを発した日から20日以内に国会に付議して,その布告を発したことについて承認を求めなければならない。」としています。
 第2項では,不承認の議決等の場合の布告の廃止について規定しています。
⑵ 第107条
 「災害緊急事態の布告があつたときは,当該災害に係る緊急災害対策本部が既に設置されている場合を除き,〔略〕当該災害緊急事態の布告に係る地域を所管区域とする緊急災害対策本部を設置するものとする。」としています。
⑶ 第109条
 第1項で,国会閉会などの場合において内閣が行う必要措置をとるため,政令を制定することができるとして,@その供給が特に不足している生活必需物資の配給又は譲渡若しくは引渡しの制限若しくは禁止,A災害応急対策若しくは災害復旧又は国民生活の安定のため必要な物の価格又は役務その他の給付の対価の最高額の決定,B金銭債務の支払(賃金,災害補償の給付金その他の労働関係に基づく金銭債務の支払及びその支払のためにする銀行その他の金融機関の預金等の支払を除く。)の延期及び権利の保存期間の延長を規定しています。
⑷ 第109条の2
 第1項で,「災害緊急事態に際し法律の規定によつては被災者の救助に係る海外からの支援を緊急かつ円滑に受け入れることができない場合において,国会が閉会中又は衆議院が解散中であり,かつ,臨時会の召集を決定し,又は参議院の緊急集会を求めてその措置を待ついとまがないときは,内閣は,当該受入れについて必要な措置をとるため,政令を制定することができる。」としています。4 遺失物法 東日本大震災被災地では,遺失物,拾得物の届出が数多くあって,会計担当者の負担も相当大きいということです。報道によると,「震災後,持ち主が特定され,返却された貴重品は1割にも満たない。県警幹部は,「特に現金は,身元を示すものが財布に入っていたりしない限り,返すのは不可能」と指摘している。一般の人が届けた現金は,ほとんどが権利放棄されていない状態にある。」という現状のようです。
 拾得者の義務及び、警察署長等の措置として,第5条で,「警察署長は,前条第1項の規定による提出を受けたときは,国家公安委員会規則で定めるところにより,拾得者に対し,提出を受けたことを証する書面を交付するものとする。」,第6条で,「警察署長は,提出を受けた物件を遺失者に返還するものとする。」,第7条第1項で,「警察署長は,提出を受けた物件の遺失者を知ることができず,又はその所在を知ることができないときは,次に掲げる事項を公告しなければならない。①物件の種類及び特徴,②物件の拾得の日時及び場所」,第2項で,「前項の規定による公告は,同項各号に掲げる事項を当該警察署の掲示場に掲示してする。」,第3項で,「警察署長は,第1項各号に掲げる事項を記載した書面を当該警察署に備え付け,かつ,これをいつでも関係者に自由に閲覧させることにより,前項の規定による掲示に代えることができる。」,第4項で,「警察署長は,公告をした後においても,物件の遺失者が判明した場合を除き,公告の日から3箇月間(埋蔵物にあっては, 6箇月間)は,前2項に定める措置を継続しなければならない。」とされています。ただし,今回は特殊な事情があり,公告を行っていないとされています。
 高額物件などに関しては,第8条で,「警視総監又は道府県警察本部長は,当該都道府県警察の警察署長が公告をした物件が貴重な物件として国家公安委員会規則で定めるものであるときは,次に掲げる事項を他の警察本部長に通報するものとする。」としています。漂流してきた物件では,これはなかなか難しい処理になります。
 返還時の措置としては,第11条第1項で,「警察署長は,提出を受けた物件を遺失者に返還するときは,国家公安委員会規則で定めるところにより,その者が当該物件の遺失者であることを確認し,かつ,受領書と引換えに返還しなければならない。」,第2項で,「警察署長は,拾得者の同意があるときに限り,遺失者の求めに応じ,拾得者の氏名又は名称及び住所又は所在地を告知することができる。」としています。
 また,費用及び報労金についても,規定のとおり措置され,多くの拾得現金が権利放棄されていないということですから,警察において保管していなければなりません。
 拾得者等の所有権の喪失については,第36条で,「民法第240条若しくは第241条の規定又は第32条第1項の規定により物件の所有権を取得した者は,当該取得の日から2箇月以内に当該物件を警察署長又は特例施設占有者から引き取らないときは,その所有権を失う。」としています。
 また,権利放棄した場合又は3箇月以内に遺失者が判明しない場合には,第37条の規定により,当該物件の所有権は,次の各号に掲げる当該物件を保管する者の区分に応じ,それぞれ当該各号に定める者に帰属するとされ、①警察署長の場合には,当該警察署の属する都道府県,②特例施設占有者の場合には,当該特例施設占有者とされています。
 6月13日現在での情報ですが,福島では約10億円で6億円以上,宮城では約13億円で約11億円が所有者に戻ったとされていました。本当に御苦労様です。5 運転免許証の有効期間 「平成23年東北地方太平洋沖地震による災害についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令」により,平成23年3月11日に発生した平成23年東北地方太平洋沖地震による災害が特定非常災害に指定され,「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律第3条第2項の規定に基づく告示」により,被災された方の運転免許証の有効期間等が延長されました。6 行方不明者や遺体の扱い ⑴ 行方不明者発見活動に関する規則
 地震と津波では多数の行方不明者が発生しました。そして,その捜索,遺体の捜索・検視・身元確認とともに,行方不明者に関する相談や受理が膨大なものになっています。
 行方不明者の発見活動については,警察法施行令の規定に基づき,行方不明者発見活動に関する規則が定められています。
 この規則の目的は,第1条で,「この規則は,個人の生命及び身体の保護を図るために行う行方不明者の発見のための活動,発見時の措置等(以下「行方不明者発見活動」という。)に関し必要な事項を定めることを目的とする。」としています。
 第2条第1項で,「行方不明者」とは,「生活の本拠を離れ,その行方が明らかでない者であって,第6条第1項の規定により届出がなされたものをいう。」,第2項で,「この規則において「特異行方不明者」とは,行方不明者のうち,次の各号のいずれかに該当するものをいう。①殺人,誘拐等の犯罪により,その生命又は身体に危険が生じているおそれがある者,②少年の福祉を害する犯罪の被害にあうおそれがある者,③行方不明となる直前の行動その他の事情に照らして,水難,交通事故その他の生命にかかわる事故に遭遇しているおそれがある者,④遺書があること,平素の言動その他の事情に照らして,自殺のおそれがある者,⑤精神障害の状態にあること,危険物を携帯していることその他の事情に照らして,自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがある者,⑥病人,高齢者,年少者その他の者であって,自救能力がないことにより,その生命又は身体に危険が生じるおそれがあるもの」とされていますから,震災のケースは,③に該当しています。
 行方不明者届の受理等については,第2章で規定されています。第6条第1項で,「行方不明者が行方不明となった時におけるその住所又は居所を管轄する警察署長は,次に掲げる者から行方不明者に係る届出(以下「行方不明者届」という。) を受理するものとする。①行方不明者の親権を行う者又は後見人,②行方不明者の配偶者(婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)その他の親族,③行方不明者を現に監護する者,④福祉事務所の職員その他の行方不明者の福祉に関する事務に従事する者,⑤前各号に掲げる者のほか,行方不明者の同居者,雇主その他の当該行方不明者と社会生活において密接な関係を有する者」としています。また,第2項で,「行方不明者が行方不明となった場所又は行方不明者届をしようとする者の住所若しくは居所を管轄する警察署長は,行方不明者届をしようとする者が遠隔の地に居住していることその他の事情により前項の警察署長に対し行方不明者届をすることが困難であると認めるときは,前項各号に掲げる者から行方不明者届を受理することができる。」としており,被災地から遠隔の地の警察署であっても受理することになります。
 また,行方不明者届を受理したときは,速やかに,行方不明者の氏名,住所その他警察庁長官が定める事項を,警視庁,道府県警察本部又は方面本部の行方不明者発見活動を主管する課の長を通じて,警察本部長に報告しなければならない(8条1項),さらに,警察庁生活安全局生活安全企画課長に報告することにより,警察庁では,当該事項に係る記録を整理し,及び保管しなければならないと規定されています(8条2・3項)。
 また,今回のように被災地での行方不明である場合には,当該行方不明者届に係る事案を当該行方不明者が行方不明となった時におけるその住所又は居所を管轄する警察署長に引き継がなければならないこととされています。(9条)。
 さらに,警察署長による行方不明者照会,行方不明者に係る資料の公表が行われるとともに(13条,14条),警察署長は,死体取扱規則第3条の規定により報告を受けた死体であって身元が明らかでないものについて,その死亡者に該当する可能性のある行方不明者届を受理しているかどうか確認し,これを受理していないときは,速やかに,身元不明死体票を作成し,本部鑑識課長に送付しなければならないこととされています(16条)。
⑵ 死体取扱規則
 警察に届けられた死体のうち,「犯罪に起因するものでないことが明らかである場合」には,警察官が死体取扱規則に基づき死体見分を行い,死因,身元の調査及び体の特徴の記録を行うことになっています。
 死体見分では,「人相」,「全身の形状」,「歯牙の形状」,「傷痕,入墨など特徴のある身体の部位」,「着衣」,「所持品」及び「指紋」等の記録を行いますが,「死体見分調書」を作成し御遺族に引き渡されることになります。ただし,身元不明である場合は,「死者身元照会書」の作成を行って,死亡地の市町村長に引き渡されることになっています。
 この規則の目的は,第1条で,「この規則は,警察官が死体を発見し,又は死体がある旨の届出を受けた場合における死因の調査,身元の照会,遺族への引渡,市区町村長への報告等その死体の行政上の取扱方法及び手続その他必要な事項を定めることを目的とする。」としています。
 刑事手続との関係では,第2条で,「検視,検証,実況見分等刑事手続の対象となる死体についても,その行政上の取扱方法及び手続その他必要な事項に関しては,この規則の定めるところによる。」,第3条で,「警察官は,死体を発見し,又は死体がある旨の届出を受けたときは,すみやかにその死体の所在地を管轄する警察署長にその旨を報告しなければならない。」としています。
 第4条で,「前条の規定による報告を受けた警察署長は,すみやかに警察本部長(警視総監又は道府県警察本部長をいう。)にその旨を報告したのち,その死体が犯罪に起因するものでないことが明らかである場合においては,その死体を見分するとともに死因,身元その他の調査を行い,死体見分調書を作成し,又は所属警察官にこれを行わせなければならない。」,第2項で,「前項に規定するもののほか,同項に規定する警察署長は,死亡者が外国人であることが判明したときは,遅滞なく,その旨を当該領事機関(総領事館,領事館,副領事館又は代理領事事務所をいう。)に通報するものとする。」としています。
 身元の確認のため,第6条第1項で,「死体の見分を行うに当つては,特に人相及び全身の形状並びに歯がの形状,傷こん,いれずみ等特徴のある身体の部位,着衣,所持品等の撮影及び記録並びに指紋の採取等を行い,その後の身元調査等に支障をきたさないようにしなければならない。」,第2項で,「死体の見分を行うに当つて必要があるときは,医師の立会を求めなければならない。」としています。
 身元不明死体の場合には,第7条で, 「死体について,身元が明らかでない場合その他必要と認められる場合においては,直ちに死者身元照会書等により指掌紋取扱規則に規定する警察庁犯罪鑑識官又は府県鑑識課に身元照会を行わなければならない。ただし,同規則第10条第1項の規定による依頼を行う場合はこの限りでない。」,第2項で,「前項の身元照会を受けた警察庁犯罪鑑識官又は府県鑑識課は,直ちにその保管する指掌紋取扱規則第2条第1号に規定する掌紋記録等及び同条第2号に規定する掌紋記録等について調査し,その結果を回答しなければならない。」としています。
 身元が判明した場合には,第8条第1項で,「死体について,身元が明らかになつたときは,着衣,所持金品等とともに死体をすみやかに遺族等に引き渡さなければならない。ただし,遺族等への引渡ができないときは死亡地の市区町村長に引き渡すものとする。」,第2項で,「前項の引渡を行つた場合においては,死体及び所持金品引取書又は死産児及び付属金品引取書を徴しておかなければならない。」としています。
 今後,死亡者を認識できないということが多数出てくるようですが,第9条では,「死体について死亡者の本籍が明らかでない場合又は死亡者を認識することができない場合においては,遅滞なく死亡地の市町村長に対し,死亡報告書により死亡の報告を行わなければならない。この場合において,戸籍法第92条第1項に規定する検視調書として第4条に規定する死体見分調書または第11条に規定する多数死体見分調書を使用することができる。」,第2項で,「前項の死体は,着衣,所持金品等とともに,すみやかに前項に規定する市区町村長に引き渡さなければならない。この場合において,死体及び所持金品引取書を徴しておかなければならない。」,第3項で,「死亡者の本籍が明らかになり,又は死亡者を認識することができるに至つたときは,戸籍法第92条第2項の規定により,遅滞なく死亡者の本籍等判明報告書を作成し,第1項に規定する市区町村長にその旨を報告しなければならない。」としています。
⑶ 遺体確認と処理に関する阪神・淡路大震災の教訓
 阪神・淡路大震災の教訓として,遺体確認と処理に関して,次のようなものがありました。
 「大規模災害が発生した場合にあっては,家屋倒壊などによって生き埋めとなった被災者の救出活動や行方不明者の捜索活動に加え,遺体の収容や検案を迅速かつ適切に行う必要があり,遺体の保存,身元確認,検視等を迅速かつ適切に行う必要があった。遺体の確認については,警察によって全国からの照会に対応できるなどその迅速化が図られたが,遺体の収容場所については避難所と同一の場所となるなど問題が指摘された。また,遺体検案に当たる医師の確保についても,負傷者等の処置に当たる臨床医とは別に確保を図るべきとの指摘もあった」とのことです。
 そして,「自衛隊においては,行方不明者の捜索,遺体の収容を行った」,「警察庁においては,歯科医の協力を得てデンタルチャートを作成するなどして身元確認作業を行うとともに,警察で把握した死亡者の情報を全国の都道府県警察本部にコンビュータシステムを通じてオンラインで伝達し,肉親等からの死亡者照会に迅速に対応できるように措置した」,「棺は全く不足していたことから,葬儀社の協力を得て,ドライアイス,骨壺等と一緒に補った」としています。
⑷ 墓地,埋葬等に関する法律
 阪神・淡路大震災よりも更に大規模な被害をもたらした東日本大震災では,安置所は満杯,火葬場の能力が追いつかず,遺体を保存するドライアイスや袋なども不足し,土葬を検討する自治体も出てきました。しかし,土地の確保が課題となっていると報道されていました。
 この法律の目的は,第1条で,「この法律は,墓地,納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が,国民の宗教的感情に適合し,且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から,支障なく行われることを目的とする。」としています。今では,衛生的見地から,土葬を行うところはほとんどないと考えられ,火葬が原則です。
 第2章では,埋葬,火葬及び改葬を定めており,第3条で,「埋葬又は火葬は,他の法令に別段の定があるものを除く外,死亡又は死産後24時間を経過した後でなければ, これを行つてはならない。但し,妊娠7箇月に満たない死産のときは,この限りでない。」,第4条第1項で,「埋葬又は焼骨の埋蔵は,墓地以外の区域に,これを行つてはならない。」,第2項で,「火葬は,火葬場以外の施設でこれを行つてはならない。」としており,第5条で,市町村長の許可が必要とされています。
 また,第9条で,「死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは,死亡地の市町村長が,これを行わなければならない。」,第2項で,「前項の規定により埋葬又は火葬を行つたときは,その費用に関しては,行旅病人及び行旅死亡人取扱法の規定を準用する。」としています。
⑸ 行旅病人及行旅死亡人取扱法
 この法律は,明治時代に制定された法律なので,原文は漢字と片仮名の表記になっていますが,本稿では、片仮名を平仮名に改めて表記します。本法は,行旅人が病気になった場合,また,死亡した場合の取扱いに関する法律です。
 第1条で,「この法律において行旅病人と称するは歩行に堪えざる行旅中の病人にして療養の途を有せずかつ救護者なき者をいい行旅死亡人と称するは行旅中死亡し引取者なき者をいう」とされ,第2項で,「住所,居所若しくは氏名知れずかつ引取者なき死亡人は行旅死亡人とみなす」としています。
 第2条で,「行旅病人はその所在地市町村これを救護すべし」としており,第7条で, 「行旅死亡人あるときはその所在地市町村はその状況相貌遺留物件その他本人の認識に必要なる事項を記録したる後その死体の埋葬又は火葬をなすべし」,第9条で,「行旅死亡人の住所,居所若は氏名知れざるときは市町村はその状況相貌遺留物件その他本人の認識に必要なる事項を公署の掲示場に告示しかつ官報若は新聞紙に公告すべし」としています。
⑹ 戸籍法
 この法律の第4章第9節で,「死亡及び失踪」について規定しています。
 第86条第1項で,「死亡の届出は,届出義務者が,死亡の事実を知つた日から7日以内(国外で死亡があつたときは,その事実を知つた日から3箇月以内)に, これをしなければならない。」,第2項で,「届書には,次の事項を記載し,診断書又は検案書を添付しなければならない。①死亡の年月日時分及び場所,②その他法務省令で定める事項」としています。
 第3項では,「やむを得ない事由によつて診断書又は検案書を得ることができないときは,死亡の事実を証すべき書面を以てこれに代えることができる。この場合には,届書に診断書又は検案書を得ることができない事由を記載しなければならない。」としています。
 また,第89条で,「水難,火災その他の事変によつて死亡した者がある場合には,その取調をした官庁又は公署は,死亡地の市町村長に死亡の報告をしなければならない。但し,外国又は法務省令で定める地域で死亡があつたときは,死亡者の本籍地の市町村長に死亡の報告をしなければならない。」としています。
 第92条第1項で,「死亡者の本籍が明かでない場合又は死亡者を認識することができない場合には,警察官は,検視調書を作り,これを添附して,遅滞なく死亡地の市町村長に死亡の報告をしなければならない。」,第2項では,「死亡者の本籍が明かになり,又は死亡者を認識することができるに至つたときは,警察官は,遅滞なくその旨を報告しなければならない。」としています。おわりに 以上,全ての災害関連法令を網羅したわけではありませんが,主要な部分を概観することはできたと思います。
 警察官の諸活動には常に明確な法的根拠が求められ,そのために,日頃の研鑽が必要であることはいうまでもありませんが,現実に災害が発生した場合には,まずは一人でも多くの住民を避難誘導し,救助するという,人命最重視の「行動」こそが必要であるということを実感しました。
 今回の震災は,読者の皆さん一人ひとりに大きく関わるとともに,日頃の備えや緊急時の対処法など,あらゆることを見直すきっかけになったと思います。また,実務能力向上と昇任試験対策とは,車の両輪であるとの意識も,改めてもっていただきたいと思います。
 なお,被災地では,昇任試験どころの話ではないと思いますが,どうか,心の傷を少しでも小さくできるよう,緊張を緩めるようにしていただきたいと思います。
 おわりに,殉職された方々,災害によって亡くなられた方々の御冥福をお祈りします。そして,被災地が一日も早く復興し,被災者の皆さんに真の安全・安心が訪れることを,心からお祈りします。