1 災害対策基本法第1章第4節「災害時における職員の派遣」 これについては前回でも述べていますが,以下,警察法及び警察官職務執行法とも関わってくる内容であるため,復習の意味で重要部分のみを再掲しておきましょう。
⑴ 第29条
 災害対策基本法(以下「法」という。)第29条第1項では,「都道府県知事又は都道府県の委員会若しくは委員(以下「都道府県知事等」という。)は,災害応急対策又は災害復旧のため必要があるときは,政令で定めるところにより,指定行政機関の長,指定地方行政機関の長又は指定公共機関に対し,当該指定行政機関,指定地方行政機関又は指定公共機関の職員の派遣を要請することができる。」,第2項では,「市町村長又は市町村の委員会若しくは委員(以下「市町村長等」 という。)は,災害応急対策又は災害復旧のため必要があるときは,政令で定めるところにより,指定地方行政機関の長又は指定公共機関(その業務の内容その他の事情を勘案して市町村の地域に係る災害応急対策又は災害復旧に特に寄与するものとしてそれぞれ地域を限つて内閣総理大臣が指定するものに限る。次条において「特定公共機関」という。)に対し,当該指定地方行政機関又は指定公共機関の職員の派遣を要請することができる。」,第3項では, 「都道府県又は市町村の委員会又は委員は,前2項の規定により職員の派遣を要請しようとするときは,あらかじめ,当該都道府県の知事又は当該市町村の市町村長に協議しなければならない。」と規定されています。
 公安委員会は,第1項に該当しています。
⑵ 第30条
 警察官の場合とは異なりますが,法第30条第1項では,「都道府県知事等又は市町村長等は,災害応急対策又は災害復旧のため必要があるときは,政令で定めるところにより,内閣総理大臣又は都道府県知事に対し,それぞれ,指定行政機関,指定地方行政機関若しくは指定公共機関又は指定地方行政機関若しくは特定公共機関の職員の派遣についてあつせんを求めることができる。」,第2項では,「都道府県知事等又は市町村長等は,災害応急対策又は災害復旧のため必要があるときは,政令で定めるところにより,内閣総理大臣又は都道府県知事に対し,地方自治法第252条の17の規定による職員の派遣についてあつせんを求めることができる。(以下略)」,第3項では,「前条第3項の規定は,前2項の規定によりあつせんを求めようとする場合について準用する。」と規定されています。
 このため,多くの関係職員が被災地に入って活動しています。
⑶ 第31条,第32条
 法第31条では,「指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長,都道府県知事等及び市町村長等並びに指定公共機関は,前2条の規定による要請又はあつせんがあつたときは,その所掌事務又は業務の遂行に著しい支障のない限り,適任と認める職員を派遣しなければならない。」と規定されています。
 法第32条第1項では,「都道府県又は市町村は,前条又は他の法律の規定により災害応急対策又は災害復旧のため派遣された職員に対し,政令で定めるところにより,災害派遣手当を支給することができる。」,第2項では,「前項に規定するもののほか,前条の規定により指定行政機関,指定地方行政機関又は指定公共機関から派遣された職員の身分取扱いに関し必要な事項は,政令で定める。」と規定されています。
⑷ 第33条
 法第33条では,「指定行政機関の長若しくは指定地方行政機関の長,都道府県知事又は指定公共機関は,内閣総理大臣に対し,第31条の規定による職員の派遣が円滑に行われるよう,定期的に,災害応急対策又は災害復旧に必要な技術,知識又は経験を有する職員の職種別現員数及びこれらの者の技術,知識又は経験の程度を記載した資料を提出するとともに,当該資料を相互に交換しなければならない。」と規定されています。
 均質的な知識や技術,能力をもった警察組織とは異なった方法で派遣を要請することになります。2 警察法第4章第4節「都道府県警察相互間の関係等」 災害対策基本法では上記のような内容になっていますが,警察においては,次のようになります。
⑴ 警察法第59条
 警察法第59条では,「都道府県警察は,相互に協力する義務を負う。」と規定されています。ここに警察組織の一体的な運用があります。
 大きな組織になると,意思決定まで時聞がかかることや,想定にないような緊急対処能力も問題となります。しかし,警察組織においては,警察庁,警視庁及び道府県警察本部,そして現場の警察署という一体的な指揮の下に必要な警察活動が迅速に展開できるという強みがあります。
 特に,情報収集能力は非常に高いものがあると思います。
 巨大組織は動き始めるまでに時間がかかるが動き始めると大きな力を発揮します。他の機関との協力も,最初のうちはうまくいかないかもしれません。しかし,現場の指揮官同士の連絡や任務を先行して行って,後から指揮が付いてくるということでもよいと思います。
 警察では,普段の事件捜査などにおいても,相互協力関係を維持していますが,今回の震災では,全国警察から多くの警察官や警察職員が,被災3県に派遣され活躍しています。
 また,派遣された職員からの報告では,被災県の警察職員は不眠不休で任務に当たっているにもかかわらず,派遣警察官にとても親切で,自らよりも派遣警察官を優先して対応していること,また,被災者の皆さんからの警察官に対する信頼感に大きいものがあるという報道がありました。
 こうしたことは,これまで,被災県警察職員の皆さんが,地域住民とともに築いた信頼関係があったからこそであり,心優しい力持ち,警察職員としての真の勇気をもった方ばかりだからだと思いました。でも,どうか健康に留意されながら活動してください。
⑵ 警察法第60条
 警察法第60条第1項では,「都道府県公安委員会は,警察庁又は他の都道府県警察に対して援助の要求をすることができる。」,第2項では,「前項の規定により都道府県公安委員会が他の都道府県警察に対して援助の要求をしようとするときは,あらかじめ(やむを得ない場合においては,事後に)必要な事項を警察庁に連絡しなければならない。」,第3項では,「第1項の規定による援助の要求により,派遣された警察庁又は都道府県警察の警察官は,援助の要求をした都道府県公安委員会の管理する都道府県警察の管轄区域内において,当該都道府県公安委員会の管理の下に職務を行うことができる。」と規定されています。
 派遣された警察官は,それぞれの公安委員会の管理下で活動することになります。3 災害対策基本法第5 章「災害応急対策」⑴ 第50条
 「第1節 通則」として,法第50条第1項では,「災害応急対策は,次の各号に掲げる事項について,災害が発生し,又は発生するおそれがある場合に災害の発生を防禦し,又は応急的救助を行なう等災害の拡大を防止するために行なうものとする。」と規定されています。
 各号とは,
① 警報の発令及び伝達並びに避難の勧告又は指示に関する事項
② 消防,水防その他の応急措置に関する事項
③ 被災者の救難,救助その他保護に関する事項
④ 災害を受けた児童及び生徒の応急の教育に関する事項
⑤ 施設及び設備の応急の復旧に関する事項
⑥ 清掃,防疫その他の保健衛生に関する事項
⑦ 犯罪の予防,交通の規制その他災害地における社会秩序の維持に関する事項
⑧ 緊急輸送の確保に関する事項
⑨ 前各号に掲げるもののほか,災害の発生の防禦又は拡大の防止のための措置に関する事項
と規定されています。
 また,第2項では,「指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長,地方公共団体の長その他の執行機関,指定公共機関及び指定地方公共機関その他法令の規定により災害応急対策の実施の責任を有する者は,法令又は防災計画の定めるところにより,災害応急対策を実施しなければならない。」と規定されています。
⑵ 第52条
 法第52条第1項では,「市町村長が災害に関する警報の発令及び伝達,警告並びに避難の勧告及び指示のため使用する防災に関する信号の種類,内容及び様式又は方法については,他の法令に特別の定めがある場合を除くほか,内閣府令で定める。」,第2項では,「何人も,みだりに前項の信号又はこれに類似する信号を使用してはならない。」と規定しています。この内容については,次に記載します。
⑶ 第53条
 法第53条第1項では,「市町村は,当該市町村の区域内に災害が発生したときは,政令で定めるところにより,速やかに,当該災害の状況及びこれに対して執られた措置の概要を都道府県(都道府県に報告ができない場合にあつては,内閣総理大臣)に報告しなければならない。」,第2項では,「都道府県は,当該都道府県の区域内に災害が発生したときは,政令で定めるところにより,速やかに,当該災害の状況及びこれに対して執られた措置の概要を内閣総理大臣に報告しなければならない。」,第3項では,「指定公共機関の代表者は,その業務に係る災害が発生したときは,政令で定めるところにより,すみやかに,当該災害の状況及びこれに対してとられた措置の概要を内閣総理大臣に報告しなければならない。」,第4項では,「指定行政機関の長は,その所掌事務に係る災害が発生したときは,政令で定めるところにより,すみやかに,当該災害の状況及びこれに対してとられた措置の概要を内閣総理大臣に報告しなければならない。」,第5項では,「第1項から前項までの規定による報告に係る災害が非常災害であると認められるときは,市町村,都道府県,指定公共機関の代表者又は指定行政機関の長は,当該非常災害の規模の把握のため必要な情報の収集に特に意を用いなければならない。」,第6項では,「内閣総理大臣は,第1項から第4項までの規定による報告を受けたときは,当該報告に係る事項を中央防災会議に通報するものとする。」と規定されています。4 災害対策基本法第5章第2節「警報の伝達等」 震災では,テレビ中継で自衛隊のヘリからの津波情報や報道機関のカメラによる津波被害の様子が放送されていました。また,警察官や消防団,漁業関係者や海上保安庁などから,津波前兆の引き潮が確認され通報されていたといいます。
 警報の伝達等については,どうなっているのでしょうか。
⑴ 第54条
 法第54条第1項では,「災害が発生するおそれがある異常な現象を発見した者は,遅滞なく,その旨を市町村長又は警察官若しくは海上保安官に通報しなければならない。」,第2項では,「何人も,前項の通報が最も迅速に到達するように協力しなければならない。」,第3項では,「第1項の通報を受けた警察官又は海上保安官は,その旨をすみやかに市町村長に通報しなければならない。」,第4項では,「第1項又は前項の通報を受けた市町村長は,地域防災計画の定めるところにより,その旨を気象庁その他の関係機関に通報しなければならない。」と規定されています。
 今回の「津波」情報も早急に伝達されたものと考えられますが,あまりにも巨大なものだったのでしょう,甚大な被害になってしまいました。
 しかし,被災地の中には,行政機関が常に最大を想定して高台への避難訓練やワークショップの開催により住民の危機管理意識を高めていたために,最小限の被害で済んだ地域もあって,いかに日常的な危機管理意識が大切かということがあるそうです。やはり,現場の市町村が一次的対処をする必要が大きいということは,今後も変更がないと考えられます。
⑵ 第55条
 法第55条では,「都道府県知事は,法令の規定により,気象庁その他の国の機関から災害に関する予報若しくは警報の通知を受けたとき,又は自ら災害に関する警報をしたときは,法令又は地域防災計画の定めるところにより,予想される災害の事態及びこれに対してとるべき措置について,関係指定地方行政機関の長,指定地方公共機関,市町村長その他の関係者に対し,必要な通知又は要請をするものとする。」と規定されています。
 緊急の際には,なかなか機能しないかもしれません。
⑶ 第56条
 法第56条では,「市町村長は,法令の規定により災害に関する予報若しくは警報の通知を受けたとき,自ら災害に関する予報若しくは警報を知つたとき,法令の規定により自ら災害に関する警報をしたとき,又は前条の通知を受けたときは,地域防災計画の定めるところにより,当該予報若しくは警報又は通知に係る事項を関係機関及び住民その他関係のある公私の団体に伝達しなければならない。この場合において,必要があると認めるときは,市町村長は,住民その他関係のある公私の団体に対し,予想される災害の事態及びこれに対してとるべき措置について,必要な通知又は警告をすることができる。」と規定されています。
 震災では,市町村の防災警報などが重要な位置を占めていました。避難を求める警報を行っていた職員の皆さんが亡くなられており,その使命感には頭が下がります。御冥福をお祈りします。
⑷ 第57条
 法第57条では,「前2条の規定による通知,要請,伝達又は警告が緊急を要するものである場合において,その通信のため特別の必要があるときは,都道府県知事又は市町村長は,他の法律に特別の定めがある場合を除くほか,政令で定めるところにより,電気通信事業法第2条第5号に規定する電気通信事業者がその事業の用に供する電気通信設備を優先的に利用し,若しくは有線電気通信法第3条第4項第3号に掲げる者が設置する有線電気通信設備若しくは無線設備を使用し,又は放送法に規定する放送事業者に放送を行うことを求めることができる。」旨規定されています。
 今回の震災でも,報道機関は「避難に関する情報」を頻繁に流していました。津波の後には,電気が不通となってしまいテレビは見ることができなくなりましたが,少なくとも津波の警戒について流されていたので,この情報に触れた方々は早期に避難されていたものと思います。5 災害対策基本法第5章第3節「事前措置及び避難」⑴ 第58条
 法第58条では,「市町村長は,災害が発生するおそれがあるときは,法令又は市町村地域防災計画の定めるところにより,消防機関若しくは水防団に出動の準備をさせ,若しくは出動を命じ,又は警察官若しくは海上保安官の出動を求める等災害応急対策責任者に対し,応急措置の実施に必要な準備をすることを要請し,若しくは求めなければならない。」と規定されています。
 震災以外の場合であっても,災害では要請をすることができることになっています。この内容を確認すると,市町村長は消防機関や水防団に対しては「命令」,警察官や海上保安官には「要請」をすることができるとされていることが分かります。
⑵ 第59条
 法第59条第1項では,「市町村長は,災害が発生するおそれがあるときは,災害が発生した場合においてその災害を拡大させるおそれがあると認められる設備又は物件の占有者,所有者又は管理者に対し,災害の拡大を防止するため必要な限度において,当該設備又は物件の除去,保安その他必要な措置をとることを指示することができる。」と規定されているのですが,地震のような突発的な場合は難しいかもしれません。しかし,台風のように,ある程度まで予測が可能な災害では,必要な措置は可能ではないでしょうか。
 第2項では,「警察署長又は政令で定める管区海上保安本部の事務所の長は,市町村長から要求があつたときは,前項に規定する指示を行なうことができる。この場合において,同項に規定する指示を行なつたときは,警察署長等は,直ちに,その旨を市町村長に通知しなければならない。」として,警察官による措置を可能としています。
 これは,市町村長が物件等の占有者,所有者に対しては,設備や物件除去の「指示」をすることができ,また,警察署長や海上保安本部長に対しては,「要求」をすることができ,これを受けた警察官等は,設備や物件の除去を「指示」することができるということです。
 指示をした場合には,市町村長に通知をすることとされています。ただし,管内実態をしっかりと把握していないと,難しいことなのではないかと思います。
⑶ 第60条
 法第60条では,「災害が発生し,又は発生するおそれがある場合において,人の生命又は身体を災害から保護し,その他災害の拡大を防止するため特に必要があると認めるときは,市町村長は,必要と認める地域の居住者,滞在者その他の者に対し,避難のための立退きを勧告し,及び急を要すると認めるときは,これらの者に対し,避難のための立退きを指示することができる。」,第2項では,「前項の規定により避難のための立退きを勧告し,又は指示する場合において,必要があると認めるときは,市町村長は,その立退き先を指示することができる。」,第3項では,「市町村長は,第1項の規定により避難のための立退きを勧告し,若しくは指示し,又は立退き先を指示したときは,すみやかに,その旨を都道府県知事に報告しなければならない。」,第4項では,「市町村長は,避難の必要がなくなつたときは,直ちに,その旨を公示しなければならない。前項の規定は,この場合について準用する。」,第5項では,「都道府県知事は,当該都道府県の地域に係る災害が発生した場合において,当該災害の発生により市町村がその全部又は大部分の事務を行うことができなくなつたときは,当該市町村の市町村長が第1項,第2項及び前項前段の規定により実施すべき措置の全部又は一部を当該市町村長に代わつて実施しなければならない。」,第6項では,「都道府県知事は,前項の規定により市町村長の事務の代行を開始し,又は終了したときは,その旨を公示しなければならない。」,第7項では,「第5項の規定による都道府県知事の代行に関し必要な事項は,政令で定める。」と規定されています。
⑷ 第61条
 法第61条第1項では,「前条第1項の場合において,市町村長が同項に規定する避難のための立退きを指示することができないと認めるとき,又は市町村長から要求があつたときは,警察官又は海上保安官は,必要と認める地域の居住者,滞在者その他の者に対し,避難のための立退きを指示することができる。前条第2項の規定は,この場合について準用する。」,第2項では,「警察官又は海上保安官は,前項の規定により避難のための立退きを指示したときは,直ちに,その旨を市町村長に通知しなければならない。」と規定されています。
 原則としては,市町村長が行い,それができないとき又は市町村長から要求があったとき,警察官等は,地域の居住者,滞在者,その他の者に避難のための立ち退き指示ができるとされています。6 警察官職務執行法第4条(避難等の措置) 警察官職務執行法第4条第1項では,「警察官は,人の生命若しくは身体に危険を及ぼし,又は財産に重大な損害を及ぼす虞のある天災,事変,工作物の損壊,交通事故,危険物の爆発,狂犬,奔馬の類の出現,極端な雑踏等危険な事態がある場合においては,その場に居合わせた者,その事物の管理者その他関係者に必要な警告を発し,及び特に急速を要する場合においては,危害を受ける虞のある者に対し,その場の危害を避けしめるために必要な限度でこれを引き留め,若しくは避難させ,又はその場に居合わせた者,その事物の管理者その他の関係者に対し,危害防止のため通常必要と認められる措置をとることを命じ,又は自らその措置をとることができる。」と規定されています。
 警察官は,警察官職務執行法によって措置をとることが普通であろうと考えられます。なぜならば,災害の現場近くには警察官がいるからです。
 今回の震災では,多くの警察官が住民の避難誘導に当たり,殉職されています。警察官としての職務ではありますが,胸が痛む思いです。
 ただ,警察官の避難指示に従って,多くの住民の命が守られたことは事実として残っていくことと思います。行方不明の警察官の早期発見と御冥福をお祈りいたします。そして,御遺族の方々には,衷心よりお見舞い申し上げます。
 警察官職務執行法による場合には,市町村長への報告ではなく,同条第2項により,「前項の規定により警察官がとつた措置については,順序を経て所属の公安委員会に報告しなければならない。この場合において,公安委員会は他の公の機関に対して,その後の措置について必要と認める協力を求めるため必要な措置をとらなければならない。」と規定されています。